ケサンラ ® (ドナネマブ(遺伝子組換え))
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ケサンラ(ドナネマブ)の電子添文に記載のAPOEε4キャリア(ヘテロ接合体又はホモ接合体)の患者とは?
APOE遺伝子にはε2、ε3、ε4の3つの遺伝型があり、ε4はアルツハイマー病のリスク因子と考えられています。APOE ε4キャリアはε4を保有し 、ヘテロ接合型はε4を1つ、ホモ接合型はε4を2つ保有しています。 ドナネマブの臨床試験において、ARIAの発現頻度が、APOE ε4ホモ接合型キャリア、ヘテロ接合型キャリア、ノンキャリアの順で高かったことから、電子添文では、APOE ε4キャリアの患者に対して重要な基本的注意が規定されています。
[解説]
アポリポ蛋白E(APOE)遺伝子は、アルツハイマー病(AD)の発症リスクを左右する主要な遺伝子の1つです1)。APOEには、3つの主要な遺伝型(ε2、ε3、ε4)が存在し1)、同じ遺伝子型を保有することをホモ接合型キャリア、異なる遺伝子型を保有することをヘテロ接合型キャリアと呼びます。ε4はAD発症のリスクとなることに加え、ADに対する抗アミロイドβ抗体薬の治験において、副作用であるアミロイド関連画像異常(ARIA)の発現リスクであることが明らかになりました1)。
抗アミロイドβ抗体薬の上市に伴い、AD発症の遺伝学的リスクとしてのAPOEという従来の考え方に加え、APOE遺伝型の情報を抗アミロイドβ抗体薬治療に関する患者・家族との共同意思決定や、副作用の発現頻度の予測などの臨床に活用する薬理遺伝子学的な意義が生じています1)。
APOE検査の実施については、最新の『認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン』1)等をご確認ください。
なお、ADは複数の遺伝要因と環境要因が発症に関与すること、ADの診断や発症予測に対するAPOE遺伝子型検査の精度は十分ではないことなどから、実臨床でのAD診断や発症予測を目的としたAPOE遺伝学的検査は推奨されていません1)。
《ADの発症リスクとAPOE遺伝子型》
認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン(抜粋)1)
3. APOE遺伝学的検査の意義
1)ADの発症リスク評価としてのAPOE遺伝学的検査
APOE遺伝型の頻度は、日本人健常者ではε3*3が74.5%と最も高く、続いてε3*4(16.6%)、ε2*3(6.4%)、ε4*4(1.7%)、ε2*4(0.2%)、ε2*2(0.2%)の順となる。一方、AD患者ではε4の頻度が健常人に比して高く、ε2の頻度が低いことから、ε4はADのリスク因子、ε2は防御因子として作用すると考えられている。日本人においては、APOE遺伝型ε3ホモ接合体(健常者で最も多い遺伝型)と比較して、ε4ヘテロ接合体は3.9~5.6倍、ε4ホモ接合体は21.8~33.1倍アルツハイマー型認知症(疾患を特徴付ける病理変化に基づかない臨床的な診断)を発症するオッズが上昇する。
《ドナネマブの臨床試験におけるアポリポ蛋白E対立遺伝子4(APOE ε4)遺伝子型別のARIA発現頻度》2,3)
国際共同第Ⅲ相試験TRAILBLAZER-ALZ 2(AACI)試験の76週時のAPOE ε4遺伝子型別の事前規定されたサブグループ解析において、ドナネマブ群※1注)のアミロイド関連画像異常-浮腫/滲出液貯留(ARIA-E)及びアミロイド関連画像異常-脳微小出血・脳表ヘモジデリン沈着症(ARIA-H)の発現頻度※2は、APOE ε4(ホモ接合型)キャリア(41.3%及び50.3%)、APOE ε4(ヘテロ接合型)キャリア(23.2%及び32.5%)、次にAPOE ε4ノンキャリア(15.7%及び18.8%)の順で高くなっていました。
また、海外第Ⅲ相試験TRAILBLAZER-ALZ 6(AACQ)試験の投与76週時のAPOE ε4遺伝子型別のサブグループ解析において、350mg開始群※3のARIA-E及びARIA-Hの発現頻度※2は、APOE ε4(ホモ接合型)キャリア(23.8%及び28.6%)、APOE ε4(ヘテロ接合型)キャリア(15.7%及び28.7%)、APOE ε4ノンキャリア(13.3%及び20.0%)でした(表)。
これらの結果から、電子添文では、APOE ε4キャリアの患者に対して重要な基本的注意が規定されています。
表)AACQ試験の投与76週時におけるAPOE ε4遺伝子型別のARIA発現頻度※2<サブグループ解析>2,3)
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350mg開始群※3 |
700mg開始群※1注) |
|||||
ホモ 接合型 (N=21) |
ヘテロ 接合型 (N=115) |
ノン キャリア (N=75) |
ホモ 接合型 (N=21) |
ヘテロ 接合型 (N=112) |
ノン キャリア (N=72) |
||
ARIA-E |
5 (23.8) |
18 (15.7) |
10 (13.3) |
12 (57.1) |
27 (24.1) |
11 (15.3) |
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ARIA-H |
6 (28.6) |
33 (28.7) |
15 (20.0) |
10 (47.6) |
35 (31.3) |
11 (15.3) |
例数(%)
※1 ドナネマブを最初の3回は1回700mg、以降は1回1400mgを4週間隔で静脈内投与(初回承認時の用法及び用量)。
※2 MRI中央読影で認められたARIA及び治験担当医師により報告されたARIAから頻度を算出した。
※3 ドナネマブを初回は350mg、2回目は700mg、3回目は1050mg、以降は1回1400mgを4週間隔で静脈内投与。
注)ドナネマブの用法及び用量は「通常、成人にはドナネマブ(遺伝子組換え)として初回は350mg、2回目は700mg、3回目は1050mg、その後は1回1400mgを4週間隔で、少なくとも30分かけて点滴静注する。」です。
上記の試験について一部承認外の成績が含まれますが、承認時評価資料のためご紹介しています。 |
[引用元]
「認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン」作成委員会, 日本認知症学会, 他監修:認知症に関するAPOE遺伝学的検査の適正使用ガイドライン. 初版 2025年3月31日
[略語]
AD=アルツハイマー病
APOE=アポリポ蛋白E
APOE ε4=アポリポ蛋白E対立遺伝子4
ARIA-H=アミロイド関連画像異常-脳微小出血・脳表ヘモジデリン沈着症
MRI=核磁気共鳴画像
最終更新日: July 2025
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