ケサンラ ® (ドナネマブ(遺伝子組換え))
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アミロイド除去が達成された後、なぜケサンラ(ドナネマブ)は投与完了できるのか?
ドナネマブ開発の基となっているアミロイドカスケード 仮説は、脳内のアミロイドβプラークの除去が、アルツハイマー病の病態進行の抑制と臨床症状の悪化抑制につながることを示唆しています。 AACI 試験では、アミロイドβプラーク蓄積がプラセボ切り替え基準を下回った患者、アミロイドβプラーク除去を達成した患者のドナネマブ治療完了後の有効性を検討し、アミロイドβプラーク除去後も、臨床的進行の抑制が継続すると推測されたことから、投与継続は不要と考えられました。
[解説]
ドナネマブは、アミロイドカスケード仮説1,2)に基づいて開発されています。アミロイドカスケード仮説は、アルツハイマー病の病態の初期に起こる不可欠のイベントがアミロイドβプラークの生成及び沈着であるとしており、アミロイドβプラークの除去が、アルツハイマー病の病態進行の抑制と臨床症状の悪化抑制につながることを示唆しています1,2)。
ドナネマブは、脳内の不溶性アミロイドβプラークにのみ存在すると考えられるN3pG Aβ(N末端第3残基がピログルタミル化されたアミロイドβ)を標的とするヒト化免疫グロブリンG サブクラス1(IgG1)モノクローナル抗体です3)。ドナネマブは、N3pG Aβに結合し、ミクログリアによる貪食作用を介したアミロイドβプラーク除去を促進すると考えられています3)。
このような作用機序に基づき、国際共同第Ⅲ相試験TRAILBLAZER-ALZ 2(AACI)試験及び海外第Ⅱ相試験 TRAILBLAZER-ALZ (AACG)試験では、実臨床でアミロイドβプラークが除去された場合に、ドナネマブ投与を完了することを想定し、アミロイドPET検査でプラセボ投与への切り替え基準に合致した患者ではドナネマブの投与を完了することとしました。
AACI 試験では、アミロイドPET 検査によるアミロイドβプラーク除去(プラセボ切り替え基準)を達成したタウ蓄積が軽度から中等度及び高度の全体集団のドナネマブ群において、52週時より前にプラセボ投与に切り替えた集団、52週時又はそれ以降にプラセボ投与に切り替えた集団、76週時までプラセボへの切り替えを実施しなかった集団を対象に、認知症重症度スコア(CDR-SB)のベースラインからの変化量を評価しました。
その結果、CDR-SBのベースラインから76週時の変化量(最小二乗平均値±標準誤差)は、ドナネマブ群(52週時より前に切り替え、52週時又はそれ以降に切り替え、76週時まで切り替えなし)はそれぞれ1.78±0.22、1.41±0.18、1.73±0.12、プラセボ群2.31±0.09でした。ドナネマブ群とプラセボ群の変化量の群間差(95%信頼区間)はそれぞれ-0.52(-0.98,-0.06)、-0.90(-1.28,-0.52)、-0.57(-0.86,-0.29)であり(p=0.027、p<0.001、p<0.001、多重性の調整なし、NCS2)、進行抑制率はそれぞれ22.6%、39.0%、24.8%でした(図)4)。
図) 認知症重症度スコア(CDR-SB)※1のベースラインから76週時までの変化量
[サブグループ解析:アミロイドβプラーク除去(プラセボ切り替え基準)※2を達成した患者(事後解析)]
[タウ蓄積が軽度から中等度及び高度の全体集団(EES集団)]
※1 認知症の重症度(認知機能及び日常生活機能)を評価するスケール。6項目、合計スコアは0から18の範囲をとり、スコア高値は障害の程度がより大きい。
※2 アミロイドPET検査により測定したアミロイドβプラーク蓄積が、いずれか1回の測定で11センチロイド未満、又は連続する2回の測定で11以上25センチロイド未満と定義した。
※3 プラセボ群は全体の結果を示している。
この結果をはじめとするドナネマブによる疾患進行の遅延や抑制を評価した結果から、ドナネマブ投与によりアミロイドβプラークが除去された後は、投与継続が不要であると考えられました。よって、用法及び用量に関連する注意には、「本剤投与中にアミロイドβプラークの除去が確認された場合は、その時点で本剤の投与を完了すること」と記載されています3)。
【AACI:TRAILBLAZER-ALZ 2試験の概要】3,5,6)
試験デザイン |
第Ⅲ相、多施設共同、無作為化、並行群間、二重盲検、プラセボ対照試験 |
対象 |
PET検査により脳内にアミロイドβプラーク沈着及びタウ蓄積が認められた早期アルツハイマー病患者(アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症) ・無作為化例数(タウ蓄積が軽度から中等度及び高度の全体集団):1736例(ドナネマブ群860例、プラセボ群876例)[うち日本人88例(ドナネマブ群45例、プラセボ群43例)] (タウ蓄積が軽度から中等度の集団):1182例(ドナネマブ群588例、プラセボ群594例)[うち日本人76例(ドナネマブ群40例、プラセボ群36例)] |
方法 |
対象をプラセボ群又はドナネマブ群のいずれかに1:1の比で無作為に割り付けた。割り付けの層別因子には、実施医療機関及びタウ蓄積(軽度~中等度、高度)を用いた。ドナネマブ群では、最初の3回はドナネマブ700mgを、4回目以降はドナネマブ1400mgを4週間ごとに最長72週間静脈内投与した。投与24、52、76、102、130週時のアミロイドPET検査により測定したアミロイドβプラークの除去がプラセボ切り替え基準※に該当した患者は、ドナネマブからプラセボへ二重盲検下で変更した。 ※ アミロイドPET検査により測定したアミロイドβプラーク蓄積が、いずれか1回の測定で11センチロイド未満、又は連続する2回の測定で11以上25センチロイド未満と定義した。 |
安全性 |
本試験における有害事象発現割合はドナネマブ群で89.0%(759/853例)、プラセボ群で82.2%(718/874例)であった。 |
[引用元]
松村晃寛: 認知症ハンドブック 第2版. 中島健二ほか編, 医学書院, 2020, p516-517
小野賢二郎: 認知症診療 実践ハンドブック 改訂2 版, 山田正仁 編, 中外医学社, 2021, p25-26
ケサンラ電子添文
ケサンラ申請資料概要(CTD:2.7.3.2.1.3.3.1)(承認時評価資料)
ケサンラ申請資料概要(CTD:2.7.6.5)(承認時評価資料)
Sims JR, et al.: JAMA. 2023; 330: 512-527(CNS31698)
[略語]
AChE阻害薬=アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
CDR-SB=認知症の重症度の評価ツール(領域スコア)
EES=評価可能な有効性集団
IgG1=免疫グロブリンGサブクラス1
NCS=自然3次スプライン
NCS2=自由度2の自然3次スプライン
N3pG Aβ=N末端第3残基がピログルタミル化されたアミロイドβ
PET=陽電子放出断層撮影法
最終更新日: August 2024
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